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2014年2月14日金曜日

何故安部公房の主人公はみな失踪するのか?



何故安部公房の主人公はみな失踪するのか?


もぐら通信(第17号)に『安部公房の変形能力12:安部公房の人生の見取り図と再帰的人間像』と題して、安部公房が再帰的な人間であることを明らかにし、そうしてこの形態の人間が一体どのような人間であるのかを論じ、その人物素描を一般性があるように素描しました。

この論の中で、同じ再帰的人間として、アイヒェンドルフ、ショーペンハウアー、トーマス•マン、ジャック・デリダとわたしの名前を挙げたわけです。

さて、今アイヒェンドルフの小説『Ahnung und Gegenwart』、日本語にこの題名を訳すと『予感と現在』という題の小説を読んで、掲題に関係して思うところがあったので、安部公房の読者に供します。

この小説は、その題名の通り、実現がありません。即ち、現在はいつも予感に満ちていてるだけで、それが実現しないのです。

それは、何故かというと主要な人物のひとりがいつも失踪するからです。

この小説以外の小説も、わたしは読みましたが、およそいつも、話は次のような話なのです。

1。主人公はいつも旅をしていて定住しない。旅の話である。
2。主人公は主要な登場人物のひとりに偶然出逢い、そして別れる。
3。別れた相手、それは名前の知られないそのときは無名の騎士であったり、やはり無名の美しい女性であったりします。
4。そうして、また旅の途上でひょんなことから、それらの登場人物に出逢います。
5。そうして、また一緒になって旅をするうちに、あるとき突然、或いは忽然として、それらの一人が居なくなり、失踪してしまいます。そうして、このことを繰返す。

この失踪した段階で、旅はまた振り出しに戻り、即ち話の筋が全然前に進まないのです。

誰かが失踪すると話が分解して、成立しなくなるのです。

即ち、時間が停止してしまうか、また何も無いご破算の場所に、その今いる(Gegenwart=現在)場所が、そういう場所に変貌してしまいます。

これらの、アイヒェンドルフの小説の特徴は、そのまま安部公房の主要な作品に当て嵌まるのではないでしょうか。何故再帰的な人間は、そのような話を創造するのかについては、もぐら通信(第17号)で論じましたので、お読み戴ければと思います。:http://goo.gl/CiGV1z

何故安部公房の主人公は失踪するのか?

それによって、その世界の現在の時間は進まず、またご破算になるからだ、というのが、わたしの結論です。

これは、『砂の女』から『カンガルー•ノート』までの根底にある考え方ではないかと思います。

安部公房は、小説を執筆することを、また演劇についても同様ですが、時間を空間化するのだと明言しています。

わたしが思い出すのは、安部公房が『リルケ』というエッセイで書いている次のことです(全集第21巻、437ページ下段)。1967年、安部公房43歳。

「ぼくはリルケの世界、とりわけ『形象詩集』と『マルテの手記』に耽溺した。(略)
 あの耽溺感を、今なら分析できる。リルケの世界は、時間の停止だったのである。停止というよりも、遮断といったほうが、もっと正確かもしれない。リルケはほとんど時間をうたわない。彼の眼には、純粋な空間しか映らないかのようだ。」

このリルケの純粋空間は、生涯安部公房の意識の中から去る事はありませんでした。それどころか、その仕事の根底にいつもあったのだというべきでしょう。それは、安部公房の小説論、演劇論、言語論を読むと、わたしには明らかだと思われます。

次回のもぐら通信(第18号)では、リルケの純粋空間、この時間の無い空間だけの空間を、あなたにも、俗な言い方をすればガチンコで正面から、リルケとがっぷり四つになって経験をし、理解をしてもらいたいと思っております。



[岩田英哉]

2014年2月12日水曜日

もぐら通信(第17号)の第二版を上梓しました。

言葉の訂正が幾つか重なりましたので、もぐら通信(第17号)の第二版を上梓しました。

こちらのURLよりダウンロードして下さい。

http://w1allen.seesaa.net/article/387859814.html

2014年2月10日月曜日

『安部公房の変形能力12:安部公房の人生の見取り図と再帰的人間像』を刊行しました


『安部公房の変形能力12:安部公房の人生の見取り図と再帰的人間像』を刊行しました。

明日、2月11日から2月15日まで5日間の無料キャンペーンを実施します。ダウンロードは、次のURLからなさって下さい。


この『安部公房の変形能力』シリーズの最後に、これまでの11巻を見通し、概括してその要所を判り易くまとめ、更に、安部公房の位相幾何学の思考様式に従って、その人生の見取り図を、10代のリルケを愛した詩人の姿からそのまま社会の中に出て行って小説家になり、また1973年の『箱男』を契機として、リルケの純粋空間に回帰するものとして描くと、その人生は美しい左右対称、上下対称の対称性を備えた人生であることがわかります。 

そうして、そのリルケへの回帰が一体何によるものなのか、その仮説を提示しました。 

また、更に、安部公房は再帰的人間であることから、その一般的な意味と価値を説明し、安部公房特有の問題を論じ、読者の理解に供しました。 

最後には、安部公房の小説の話法の構造、そのプロット、それが何故そうなのかを、これも物語の一般構造と、安部公房独自の問題について、後者については埴谷雄高と比較をして論じ、簡潔にまとめた次第です。 

これにより、全く斬新で、今迄に無い論理的、体系的な安部公房像を読者に提示できたと確信しております。是非、お読み戴ければと思います。 

ダウンロードは、次のURLからなさって下さい。

2014年2月9日日曜日

もぐら通信(第17号)を発行しました。



もぐら通信の読者の方へ、

今回は、お待たせしました。

頭書の件、もぐら通信最新号を添付ファイルにてお届け致します。
お読み戴ければ、幸いです。ダウンロードは、次のURlから:



今号の最大の見所は、元NHKディレクター故長与孝子さんの「長与日記」です。
安部公房との打ち合わせの記録は、面白くかつ歴史的に重要なものです。

池田龍雄先生の講演会のレポートに、睡蓮さんの句集があります。

さらに、ホッタタカシさんによるTAP『方舟さくら丸』読書会報告もありますし、
柏木静さんによる『箱男』読書会報告もあります。

各地で楽しい読書会が行われたようです。

また、巻末に執筆者別索引を作成しました。執筆者の著作一覧が見られます。
とにかく、盛り沢山の内容です。

ご感想などお聞かせ下さると、ありがたく思います。

また、ご寄稿も随時受け付けております。
お気軽に、ご連絡願います。

では、安部公房とのよいひとときをお過ごし下さい。

もぐら通信

編集部一同

もぐら通信(第17号)の目次をお知らせします。


第17号の目次は、以下の通りです。追って、ダウンロードのURLをお知らせ致します。

今号の最大の見所は、元NHKディレクター故長与孝子さんの「長与日記」です。
安部公房との打ち合わせの記録は、面白くかつ歴史的に重要なものです。

池田龍雄先生の講演会のレポートに、睡蓮さんの句集があります。

さらに、ホッタタカシさんによるTAP『方舟さくら丸』読書会報告もありますし、
柏木静さんによる『箱男』読書会報告もあります。

また、巻末に執筆者別索引を作成しました。執筆者の著作一覧が見られます。

と、盛り沢山の内容です。



1。表紙ニュース...page 1
2。目次...page 4
3。安部公房氏との打ち合わせ記録(1):長与孝子...page 5
                 序文:宮西忠正
4。うずめ劇場ゲスナー氏インタビュー:編集部•岩田英哉...page 12
5。もぐら通信、池田龍雄先生に会いに行く:w1allen/岡田裕志...page 17
6。東京•安部公房•パーティー『方舟さくら丸』読書会報告
     ~方舟はいまだ発進せず?~:ホッタタカシ...page 23
7。大麻と箱男:柏木静...page 30
8。もぐら忌(公房忌)句集:睡蓮/OKADA HIROSHI...page 34
9。『私の本棚より』:『安部公房を語る』(あさひかわ社):
                        岡田裕志...page 36
10。質問箱...page 38
11。安部公房の変形能力16:まとめ
    ~安部公房の人生の見取り図と再帰的人間像~:岩田英哉...page 40
12。もぐら感覚19:様々と窪み:タクランケ...page 73
13。訂正箇所...page 91
14。読者からの感想...page 92
15。合評会...page 96
16。本誌の主な献呈送付先...page 96
17。本誌の収蔵機関...page 96
18。個人情報保護方針...page 96
19。編集方針...page 96
20。バックナンバー...page 96
21。編集者短信...page 97
22。編集後記...page 98
23。次号予告... page 98

24。もぐら通信執筆者別索引... page 99